釣り師への道　　〜　季節の中で　〜


　釣り人は欲張りな生きものだ。僕が釣りを始めた頃は、どんな魚でも自分の竿に魚が掛かっただけでも嬉しかった。たとえ魚の名前を知らなくても、海にいるだけで幸せだった。

　それが回数を重ねるたびに少しずつ釣り方を覚え、人より数多く釣りたいと思うようになり、いろいろと工夫をし始める。仕掛けに凝り、風を読み、潮汐を探り、釣り場（ポイント）にこだわり、やがては良い道具を使いたくなる。これは趣味の世界に嵌る人の世の常である。もし思うように釣果が上がらないと、その奥深さに改めて釣りの難しさを知り、意欲、探究心を掻き立てられ、更なる上の段階に上ろうとする。

　やがてベテランの域に達すると、数の多さよりも、季節に応じて本当に釣りたい魚（本命）を追求するようになる。良型の大物を目指して、ひたすら狙いを定める。対象魚は、カレイ、アイナメ、メジナ、そして釣り師永遠の夢、黒鯛・・・。

　釣り人はやはり欲張りだ。どこまでも上手くなりたいと願い、釣り師への道をひたすら究めようとする。

　でも最近、釣りを始めた頃のことを思い出すようになった。魚釣りに行くからには、何でもいいから釣れればいいと思うようになった。回遊魚と同じく、釣り師の心情も回帰するのだろうか。何とも不可思議な魔物である。

　更にもっと歳をとれば、たとえ一匹も釣れなくても、一日海でのんびりするだけで満足してしまうのだろうか。
　海面に溶け込むライン、水面に漂うウキ、投げ込む撒き餌、潮に寄り添う魚の気配。、いつもの景色にいつもの情緒。移りゆく季節の中で、あの頃の海の青さと空の高さをいついつまでも感じていたい。そう願う今日此の頃。

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